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大阪地方裁判所 昭和60年(わ)3520号 判決 1985年12月05日

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金二〇万円に処する。

未決勾留日数中一九〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してある覚せい剤一一袋(昭和六〇年押第八二一号の一及び二)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一

一  昭和五九年四月二二日午後六時一五分ころ、大阪府八尾市幸町二丁目三六番地市営住宅一二棟二四号の当時の自宅において、仲田繁俊に対し、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約二・五グラムを代金三万五〇〇〇円で譲り渡し

二  昭和六〇年四月一六日午後一〇時ころ、大阪府東大阪市瓜生堂一丁目一番八号の当時の自宅において、大城こと徐廷國に対し、前同様の覚せい剤結晶約〇・二グラムをムショウデ譲り渡し

三  北田治郎と共謀のうえ、前同日午後一一時ころ、前同所において、田中茂に対し、フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶約〇・六グラムを無償で譲り渡し

第二

一  昭和五九年七月一〇日午後四時ころ、前記第一の一の場所において、前同様の覚せい剤結晶約〇・〇七五グラムを水に溶かし、自己の身体に注射して使用し

二  昭和六〇年四月一六日午後七時四〇分ころ、前記第一の二の場所において、前同様の覚せい剤結晶若干量を水に溶かし、自己の身体に注射して使用し

第三  北田治郎と共謀のうえ、前同月一八日午後一時四〇分ころ、前同所において、営利の目的をもつてフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶約二・一六グラム(昭和六〇年押第八二一号の二はその鑑定残量である。)を所持し、かつ、(営利の目的はなく)右同様の覚せい剤結晶約〇・四六グラム(同押号の一はその鑑定残量である。)を所持し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(累犯前科)

被告人は、(一)(1)昭和五三年五月二日大阪地方裁判所堺支部で覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反の各罪により懲役一〇月(四年間執行猶予、昭和五四年一一月五日右猶予取消)に処せられ、(2)昭和五三年一〇月一一日大阪地方裁判所で傷害罪により懲役六月(四年間執行猶予、付保護観察、昭和五四年一一月五日右猶予取消)に処せられ、(3)同年一〇月八日同裁判所で覚せい剤取締法違反、火薬類取締法違反の各罪により懲役八月に処せられ、右(3)の刑を昭和五五年四月一八日に受け終わつたのち、引き続いて右(1)の刑を昭和五六年二月一八日に、右(2)の刑を同年八月一八日にそれぞれ受け終わり、(二)その後犯した覚せい剤取締法違反の罪により昭和五七年四月二二日同裁判所で懲役一年二月に処せられ、昭和五八年四月二二日右刑の執行を受け終わつたものであつて、右各事実は、検察事務官作成の前科調書及び昭和五七年四月二二日付判決書謄本によつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の各所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項(第一の三については更に刑法六〇条)に、判示第二の各所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に、判示第三の所為は非営利目的での所持の点をも包括して刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項に(非営利目的での所持の点は、営利目的での所持とは別罪として公訴提起がされているが、判示各覚せい剤を所持するに至つた経緯、所持の態様等にかんがみると、その全部を包括して、営利目的での所持の一罪が成立するものと解する。)それぞれ該当するところ、判示第三の罪につき所定刑中情状により懲役と罰金の併科刑を選択し、被告人には前記の各前科があるので判示各罪につき刑法五九条、五六条一項、五七条により(判示第三の罪についてはその懲役刑について同法一四条の制限内で)三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金二〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち一九〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してある覚せい剤一一袋(昭和六〇年押第八二一号の一及び二)はいずれも判示第三の罪に係る覚せい剤で被告人の所持するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、刑務所仲間に頼まれて覚せい剤の入手を仲介してやつたという事案(第一の一の事実)、二回にわたり覚せい剤を自己使用したという事案(第二の各事実)、遊び仲間が持ち込んだ覚せい剤を密売することを企てて小分けしたものを、友達に無償で譲渡したり(第一の二及び三の各事実)、所持したりした(第三の事実)という事案からなるところ、本件各犯行に係る覚せい剤の総量は約六グラムで、うち二グラム余が営利目的によるものであつて、軽視できない数量となつていること、被告人は、同種前科が三犯もあるにもかかわらず、前刑出所後まもなくして自己使用を再開し、昭和五九年七月には無免許運転等で逮捕された際、尿を任意提出したことにより判示第二の一の事実が発覚するや、直ちに転居して身を隠し、無為徒食のまま覚せい剤に耽溺し、その挙句に射ち代を浮かせようと覚せい剤の密売を企てたものであつて、覚せい剤に対する親和性が顕著であること、被告人は、仕事もせず、いわゆるシャブ仲間と深く交際するなど生活状況も芳しくなかつたこと等の事情にかんがみると、犯情は悪質であつて、被告人の刑事責任は重大といわなければならないが、他方、今回密売を企ててはいたものの、現実の密売行為には至つておらず、右出所後に被告人が密売を行なつていたような形跡も窺えないこと、反省悔悟の情も認められることなど被告人に有利な事情も存するので、これらの諸事情を対比衡量のうえ、主文のとおり量刑した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡 次郎 裁判官坂井満 裁判官奥田哲也)

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